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中間プレゼン資料
中間プレゼン資料
   




金融危機と金商法の目的


 このたびの金融危機は、資本市場が機能しないことで国民経済の健全な発展が阻害され、株も債券も証券化商品も生まれてこの方買ったこともない国民全体が多くの被害を受けていることをこれでもかと示している。証券化とは法的な総合力が問われる金融の手法であり、アメリカはこの点で最高水準をいっているのかと思えば、この体たらくだ。格付けが機能しないことも、投資対象商品の品質を適正に表示できなかったことを意味している。

 かつて、借金漬け企業買収(LBO)の際に活用されたのはジャンクボンドであったが、今回のサブプライムローンも、実はジャンク証券化商品であった。サブ・プライムと言えば、プライムの次という印象を与えるが、プライムに近いものではなく、実はジャンク(ぼろくず)だったのだから、ジャンクボンドを生んだアメリカ的風土の延長にサブ・プライム問題があったことは明らかだろう。

 このたびの金融危機でどう控えめに見ても明らかなのは、資本市場が機能しないことによる被害者は国民全部であり、企業倒産、失業者の群れ、社会不安、犯罪の増加であり、1930年代であれば、資産価値の大幅な低下を海外の植民地支配に求めれば戦争だって生ずるような問題であることを、これでもかと明らかにしている。折しも、新しい金融商品取引法の第一条は、資本市場の機能の十全な発揮と公正な価格形成機能の確保を謳っており、金商法が機能しないことによる被害者は証券取引という契約の相手方である投資家だけではなく、国民全部であり、投資者も国民の一人としてまずは保護されることを世界に先駆けて明らかにした。このことは誇るべきことなのではないか。金商法は第一条で、こうした資本市場の機能を明らかにして、「もって」投資者の保護と国民経済の健全な発展をもたらすとしているのだから、投資者保護のような契約の相手方の保護は、資本市場を機能させるための諸施策が実現することの結果にすぎないと言っているのである。

 しかるに、金融商品取引法の権威あるテキストとされてきた書物(河本一郎=大武泰南・金融商品取引法読本<2008年12月有斐閣>)が、こうした金商法の目的規定の大きな変化を無視して、金商法の目的は投資者の保護に尽きる(同書3頁)、としていることは不思議という他はない。そもそも、河本一郎教授は、証券取引法の目的を資本市場の機能の確保とし、公正な価格形成の確保であると主張してきた私見を誰よりも早く認められ、伝統的な投資者保護論が重大な欠陥を有していたとの批判を率直に受け止め、十分な反省の念をもって、従来の投資者
保護とは一体何であったのか、改めて考えなければならないとされ、投資者保護という言葉を用いるものの、まさに「証券市場の確立を通じての投資者保護」であると主張された先生である(河本一郎「証券取引法の目的」法学教室151号64・66頁(1993)。

 そうした河本先生の意向とは無関係にこの書物は作られたのであろうか。金商法の諸制度は目的規定に則して解釈される必要がある。時代は変わり、金商法の目的規定も明らかに変わったのに、旧来の発想を徒に墨守しようとするかに見えるこうした書物が、権威あるものとされるとしたら、まさしく被害者は国民すべてということになるのではなかろうか。
拠点リーダー  上村達男
(略歴はこちら)


 

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